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ミイラ取りがミイラに

2019年2月2日のこと。

友人に依頼され、鋸南町ビジネスマッチングツアーのワークショップで基調講演をした。タイトルは、その前月に出した書籍のタイトルと同じで、『「ありえない」をブームにするつながりの仕事術』で。


その友人はそれまでの約2年間、企業誘致の仕事で鋸南町に頻繁に出入りしていた。前年8月に僕も「遊びに来てよ」と言われ、気軽に鋸南町を訪れた。ただ、鋸南で事業するということは全く考えられなかったので、その友人に何度も「また来てよ」と言われ、何度も断った。このビジネスマッチングツアーも、当然断った。


「どうして来ないの?」と言われたので、「鋸南町で事業する予定は本当にないので、企業誘致のイベントに行くのは気が引ける」と答えた。その友人は、やがて、「仕事依頼していい?」と連絡をしてきた。そのワークショップで基調講演をしてほしいという依頼だ。

出版したばかりの本の内容で、少しでも貢献できるならと引き受けた。企業誘致の一環で行くのは気が引けたが、初めて訪れた時にとてもいい印象を受けたので、再訪したいとは思っていた。


講演とワークショップは大成功だった。とにかく、盛り上がった。ワークショップでのグループごとの議論の盛り上がりは本当に楽しかった。鋸南町というところは、人口減少と高齢化で悩む過疎地だと言うが、なにか底知れぬエネルギーがあるのでは、と感じた。自然の中で心も身体も気持ちいいなとも感じた。


これだけ盛り上がれば、参加者の誰かが事業を起こすのではないかと思った。その日できた友人が鋸南で事業をしていれば、ときどき遊びに来てもいいなと思った。そして、それを強く期待した。イベントには町民と周辺住民も数名参加していた。彼らは僕に話しかけてくれた。優しくいい人たちだし、とても意欲的だと思った。


それから数ヶ月。その中の誰かが鋸南町でなにかを始めたという話は聞かなかった。でも僕は、マッチングツアーに連れて行った友人のまさやんを都度誘って、3度目・4度目・・・・・・何度も鋸南町を訪問した。その時に、マッチングツアーで会った町の人にいつも再会した。風景だけでなく、人にも惚れ込んでしまった。


どうして誰も、なにもしないんだよ! そういつも思っていた。そして、いま、鋸南エアルポルトとなっている物件の前を通るたびに、こんなに大きな物件(450平米)を借りる人ってなかなかいないよなー、と他人事のように思っていた。


誰かの真似をするのは嫌いだ。そして、誰もやらないことをやるのが好きだ。鋸南に何度も通い、人と食事と風景にどんどん魅了されていき、ある日保田中央のバス停の前で思った。

「こんな馬鹿でかい物件を借りる人はまずいないよな・・・俺以外は」


「ありえない」をブームにする。


パクチー・コワーキング・シャルソン・・・きょなん?


どこかに物件を探していたわけではない。田舎で事業をしたかったわけでもない。2拠点生活にも憧れてもいない。でも、そこを借りることが、定めだったみたい。


その日から2年が経った。まだ2年か。


ミイラ取りはミイラになった、そんな風にも言われる。鋸南でミイラになれて光栄だ。通い始めてから、ゆっくり着実にできている人間関係を熟成させて、めちゃくちゃ楽しい町を、鋸南のみなさんと、鋸南に来る人たちと一緒につくりたい。



2021年2月2日 佐谷恭

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